筆者プロフィール
古川 利博(フルカワ トシヒロ) 東京理科大学工学部教授
研究分野:通信・ネットワーク工学 (情報通信工学,医用工学,ディジタル信号処理)
皆さん,こんにちは.私は都内に位置する私立大学(世間では少しばかり一流と目されている大学です)情報工学系の学部,大学院で教授として教育・研究に従事している教員です.今回は以前から指摘されている「大学生の学力低下」の現状について私の勤務校を例にしてほんのさわりを述べてみたいと思います.
この問題については既に20年程前に「分数ができない大学生」という著書が出版され,世間の大きな注目を集めました.私も気になって手に取って読んだものです.ちょっと怪しい記憶をたどると,その内容は「文科系学科に所属する大学生の中には通分の概念を理解していない学生が結構存在し,分数の加減乗除の計算ができない者がいる」というものでした.流石に私が在籍する勤務先にはそのような学生はいなかったのですが,理工系学生にも学力低下の波がひたひたと押し寄せているな,と感じたものです.翻って現状はどうか・・・.残念ながら,その傾向は続いています.
例を挙げましょう.各大学の理工系学部・学科では必ずと言っていいほど必修科目に指定され,理工系学生が履修しなければならない科目に「線形代数」という科目があります.これに関連して学力低下を感じざるを得ない一例を紹介します.
皆さんは Ax=b と表記される連立方程式を目にしたことがあるでしょう.Aは係数行列,xとb はベクトルであり,A と b が与えられている量で,これらから
x を求める問題ですね.この方程式の解 x を x=b/A と答えた学生が少数ながらもいました.おそらくAとxを乗算した結果がbであるから,bをAで割れば答えが得られると思ったのでしょう.もちろん,線形代数(そこまではいかずとも初歩の行列演算の概念)をちゃんと理解している学生は先ほどのような回答はしませんよね.何故,このような回答を与えるのか?それは演算としての約束事を理解しないまま,形式的に計算を行った結果に他なりません.
この例をご覧になったあなたがたはそんなことをする学生がいるのか?と思われるでしょうが,事実なのです.この例以外にも学力低下を感じさせる事項は枚挙にいとまがありません.
巷では学力低下の原因についていろいろ議論されています.大学定員数は殆ど変化ないのに少子化の影響で大学への入学難易度が下がったから,等々.確かにそれも一因だとは思いますが,もっと懸念されるのは自分の頭で思考する学生が減少していることではなかろうか,と私は分析しています.誤解を恐れずに言えば,良くも悪くも高校(あるいは予備校,塾等)では,生徒達に過剰とも思われるサポートを行っているため,生徒達はそのような支援を受けるのが当たり前,問題解決への道筋を懇切丁寧に教えてくれるのは当然である,という認識が非常に強くなっています.
一方,大学ではそのような認識では自分自身の進歩,進化は到底望めません.ではどうしたらいいのだ!と思われるでしょう.それについてはまた次回にお話ししたいと思います.
お楽しみに!
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